Key Sentences (こころに残る世界のことば)   -Page 22-

こころに残る名文・名文句をちょっとずつ紹介します。
KEY SENTENCE のところを読んでみましょう。

 

(KEY SENTENCE)

Nothing will come of nothing.

何もないところからは何も出てはこない。





Lear: To thee and thine hereditary ever
    Remain this ample third of our fair kingdom,
    No less in space, validity, and pleasure
    Than that conferr'd on Goneril.- Now, our joy,
    Although the last, not least; to whose young love
    The vines of France and milk of Burgundy
    Strive to be interest; what can you say to draw
    A third more opulent than your sisters? Speak.

Cordelia: Nothing, my lord.

Lear: Nothing?

Cor: Nothing.

Lear:
Nothing will come of nothing. Speak again.

Cor: Unhappy that I am, I cannot heave
    My heart into my mouth. I love your Majesty
    According to my bond; no more nor less.

Lear: How, how, Cordelia? Mend your speech a little,
    Lest it may mar your fortunes.

 (William Shakespeare, King Lear, I-I)



<訳>

リア王: おまえとその子孫が永久に相続するものとして、わが美しい王国の、この広大な
      三分の一の領域がある。 広さにおいても、価値においても、またその楽しみに
      おいても、ゴナリルに与えたものに少しも劣るところはない。
      さてコーデリア、私の喜びよ、私のいちばん末の、いちばん小さい娘ながら、
      その若い愛を求めて、フランスの ぶどうとバーガンディのミルクとが、何かと関心を
      得ようとせり合っている。おまえはどう言ってくれるかね、
      姉たちのよりずっと豊かな残り三分の一を引き当てるために? さあ、言いなさい。

コーデリア: 何もございません、お父さま。

リア王: 「何もない」だと?

コーデリア: 何もございません。

リア王: 何もないところからは何も出てはこない。もう一度言うがよい。

コーデリア: 不仕合わせなことではございますが、私には自分の心を口の中にまで
        引き上げることはできません。私はお父さまを親子の定めに従って愛して
        おります。それ以上でもなく、以下でもございません。

リア王: どうしたのだ、コーデリア! その言葉は少し言い直せ。
     そうしないとおまえの財産は台無しになってしまうかもしれないぞ。

(ウィリアム・シェークスピア「リア王」1幕1場)




シェークスピアの四大悲劇のひとつ「リア王」の最初の場面。老いたリア王は3人の娘に、自分への愛情の度合いによって王国を分与しようとする。姉ふたりは美辞麗句を並べ立てて王への愛を語るが、そんな姉たちの態度を嫌悪した末娘のコーデリアは「何も」と答えてしまい、父王から勘当される。確かにコーデリアの言うとおり、心の伴わない言葉は空しい。だが、言葉の扱いと人の心との係わりは一筋縄ではいかない。思いもかけぬ言葉に舞い上がったり、落ち込んだり、私たちが言葉に踊らされることは多い。言葉の衣に隠された真意を読みとろうとする努力、ここぞという大事な場面では言葉を尽くして自分の思いを伝えようとする努力は、やはり怠ってはならないのだろう。リア王は愚かで傲慢だが、何も言わなければ伝えたい真意も伝わらない、ということをこの言葉は教えてくれる。